長年にわたり日本紙幣には、肖像が印刷されています。日本紙幣は、肖像に着目すると様々な発見があります。
2004年から日本で使用されている紙幣は、千円札に野口英世、五千円札に樋口一葉、一万円札に福沢諭吉の肖像が描かれています。この3人には幾つかの共通点があります。
一つは、明治時代を中心に活躍したという点です。明治時代は政治体制や社会風俗、人々の考え方が大きく変わり、現代日本の基礎が形成された時代といっても過言ではありません。
また、江戸時代以前など年代が古いと、歴史上大きな名を刻んだ人物であっても写真が残っていません。明治時代以降であれば、日本や世界に大きな影響を与えた人物の写真は基本的に残っているため、お札を作る側としても、明瞭な人物像を描くことができるという利点があったのではないでしょうか。
もう一つの共通点は、文化人であることです。野口英世は細菌学者、樋口一葉は女流作家で、素晴らしい書物や研究論文を残しています。慶応義塾を創設したことで有名な福沢諭吉は、思想家・教育家で多くの書物を残しています。このように、日本の文化を高めることに貢献した人たちなのです。
肖像をはじめとするお札の様式は、通貨行政を担っている財務省、製造元の国立印刷局、発行元である日本銀行の三者の協議を経て、最終的に日本銀行法を基に財務大臣が決定します。
お札の肖像の選び方に特別な制約などは存在していませんが、多くは、「日本国民が世界に誇れる人物かつ、教科書に掲載されるなど、一般的に広く知られていること」「偽造紙幣の蔓延を防ぐため、可能な限り緻密な人物像の写真や絵画を入手できる人物であること」などの理由で選定されています。
現在使われている紙幣は、千円札、二千円札、五千円札、一万円札で、それぞれ別の人物が描かれています。そのため、「同人物が肖像として採用されることはないだろう」と考えている方もいらっしゃると思います。
実際は、同人物が肖像として採用される回数に限度はなく、肖像として何度も採用されている人物の一人に聖徳太子がいます。聖徳太子の肖像が描かれた初めての紙幣は、1930年発行の乙百円券です。
それから1958年発行の一万円券に採用されるまでに聖徳太子は紙幣の肖像として7回登場しています。
聖徳太子の一万円札は1986年まで使われていたため、なじみ深いという方もいらっしゃるはずです。
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